建主は、屋久島の豊かな自然と植生に惹かれてインドから移住した。敷地は、亜熱帯気候の植生に囲まれており、緩やかな南向きの斜面地であるため、1年を通じて温暖で、川沿いの照葉樹林帯が夏の西日と冬の西風を緩和してくれている。一方、シダなどの蒸散機能の高い植物が薮化し、粘土質土壌も相まって水が停滞しやすい土中環境になっていた。風と水の流れを読む地上部の風通し、試掘による土壌観察を基に設計を始め、敷地中央の樹木群を残しながら、母屋・水屋・離れの分棟配置を計画した。
母屋は畳の広間を中心に、東西南北の庭に繋がる縁側空間と、1段下には岩盤層まで切土造成した炊事場を設けた。造成残土は敷地内に敷葉工法で活用した。水屋は五右衛門風呂を中心に、トイレと脱衣、干し場をコンパクトにまとめている。離れは本を読む書斎であり、瞑想の場として使われる場所であるとともに、来客時には炉で茶を沸かすおもてなしの場となり、来客が宿泊する宿ともなる。
屋根からの雨落ち部、石場建て基礎の下地、配管配線の引き込みルート、人と工事の動線空間を中心に、土中の空気と水の循環、通気浸透機能を再生することも試みた。石場建て基礎は草が育つ開放された大地を担保すると共に、木組みと貫の構造体からの均等分散的な振動エネルギーを土中に伝えることによって、土中の発酵環境を育む。こういった計画に加え、建築工事の前から工事完了までケアし続けることで、現場には穏やかな風が流れて、植物も水の浸透を担ってくれる。設計の調整や変更もその場の風と土の状態をヒントに決定した。
屋久島に通い始めてから10年になるが、訪れる度に変化する環境の実態を痛感している。多様な生命が息づく一方、土砂災害や登山道崩落、海洋汚染も頻発している。雨水は大地に染み込まず泥水となって流出し、大地の過乾燥は街場から里山、原生林の中でも起こっている。道路や堰堤といった土木や建築の開発の影響によって、流域生態系と土中環境が衰えてきているのではないか。屋久島本来の豊かな自然のリズムを取り戻すきっかけとなることを目指したい。
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